SHORT STORIES #005
十二月の胸騒ぎ
Mind unsettled, in December
去年今年貫く棒の如きもの 虚子
いつの年も年の暮れがせまると新しい年を迎えるために、去っていく年をふり返り清算しつつ、新しい年に期待を寄せる。
酔い覚めに胸騒ぎかなとき師走
ことを起こす前には蕎麦屋か居酒屋か。今日は討ち入り。
空に向かって体操をするように不忍池の柳は枝を差し伸べ、袂を揺らすように、葉を風にたなびかせる。かけ声は江戸弁で。
薔薇を剪り刺をののしる誕生日 西東三鬼
ーー いっときの命を限りに咲き、朽ちていく花を、今年は、目をそらさずに見られるようになったように思う。
ーーあー、つかれたっ
いつもいつも右っ左っ右っ左って、気が遠くなつちやうよ、ほんとのはなし、
たまに、左っ右っ左っ右ってこともあるけれど、あまり変わったもんじやない。
電車は好きだよ。いろいろな同族に会えるし、話もできる。近ごろ流行ってるラジオの番組なんかも教えてもらう。えつ、ラジオつて、主人のいないときに聴いてるよ、娯楽と教養のためにね。
そうそう、会社の会議なんかも面白い。机の下で、相手の会社の人に連れられて来る靴たちと、ウラ話含めて喋ってる。
相撲協会の会議に来てる靴たちの話なんて、サイコーに面白いと思うよ。
ーー寒いから、下の方にかたまっているのよ
黒い髪を肩までのばした母親は、振り向きざまに言った。小学校低学年の男の子は商店街の居酒屋の前にある大きなまるい甕を覗きこんでいた。
ーーじっとしてる
めだかを飼っているらしい。下の方でかたまっている。寒さにじっとしびれながら、手を水面の上でなぞっている。
めだかは冬眠しているのか。冬眠するとしびれるような寒さも感じなくなるのか。血が凍ってしまうような冷たさに死んでしまうのか。
一日の終わりに
やっとこさ、会社から帰ってきたのである。電車の灯りは電球のように黄色く見えてきたと思ったら、西瓜の匂いがするのである。
そんな香水があるのかと、ばかなことを考える。
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