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#010
いつも見上げる木が
十一月のこと、今年、ここに来るのは最後だろう。何度か通ううち、ここの森に、知り合いができた。立ち寄って、木肌をなでていく木、見上げて眺める木、木に耳を傾けたくなる木など。木の知り合いもいいものだ。
晩秋、夏に笑う木は、冬に備えて、枝で音を鳴らす稽古する。
いつも見上げる木がいつもそこにある。
いつも話をする木。
その楓が鏡に向かって、居ずまいを正している表情のように見えた。
その紅葉の木の下に来たとき、辺り一帯が赤い光に満たされていた。写真を取ろうと空に向かって紅葉を見る。紅い。目を地面に落としても紅い。落ちている紅葉のせいではない。そこではじめて、辺りの空間の赤くなっていることに気づく。
上ばかり見ていたせいで立ちくらみでもしているんだろうか。疲れで
気がふれたのだろうか。
それまで、十一月の薄暗くなった光に目の慣れたぼくたちにとっては、五感の錯覚かと思うほど、赤く見えたのだった。
2018年11月 山梨県・小金沢連峰
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