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雨の雨降山

​Afuriyama under the Rain

- Doshi, in Jul

朝八時十分発の登山バスに乗り、登山口である小屋平へ。大半の乗客は大菩薩峠を目指し、小屋平で降りたのは二人だけだった。今日のコースは、尾根筋の石丸峠まで約一時間。その後尾根をたどって小金沢山、牛の寝雁ヶ腹摺山、黒岳、湯の沢峠まで。

 

二年前の夏に初めて来て以来、このコースのぶな林、苔や笹の群生する尾根に魅せられ、写真を撮りに数回訪れている。

 

木々の見せるさまざまな姿 ーー 木々の形、木の肌の表情、木に生えた苔などーーには、しばし足を留めて見つめていたくなる。

一方、その一生を終えた木のさまにも目を見はるものが多い。倒れた木の流木のように木肌がつるつるになったさまは、オブジェといってよい。また、朽ちて残った木の株は苔むし、形は崩れつつあっても、枯山水を思わせる表情をたたえている。

 

小屋平から歩いて十分ほど。一度林道を横切ったところで富士山が現れる。万年雪の筋が細いが力強い線を描く。藍色の富士の嶺は勇壮に見えた。

「今日最後に見る富士山かもしれませんね」

とそこで写真を撮っていた女性の登山者に話しかけられた。

いまいる山梨の位置からすれば、梅雨前線がおでこのあたりにあるようなものである。

ぼくもそう思いつつ、富士山を見ながら相槌をうった。

 

石丸峠で視界がひらけたところで朝食。朝炊いたご飯でつくったのり弁。

 

かつぶしご飯に少しオリーブ油を混ぜてみた。海苔が弁当のふたにこびりつくのをたいへん懐かしく思う。思いのほか、風にあおられる。飛ばないように、破けないように、慎重に、海苔をご飯の上に敷き直す。

峠までの登りで一緒になった六十代のおじさんは、既に二つ目の握り飯を食べはじめていた。そして、昨晩から、ここに車での顛末を語り終えて、この夏、北海道に、山に登りにゆくプランを話しはじめていた。

 

 ぼくの 行ったことのない遠くの山の話を聞きながら、これから歩く尾根を眺めていた。標高二千メートル弱の森の葉の色はどんなだろうか。今朝方までアメリカの降った雨上がりの苔や木々はどのような表情を見せるのだろうかとたのしみにしていた。

 

 

 

白石峠から見晴らしのよい笹原を歩き、ぶなの森へ入っていく。

 

見上げるとぶなの青い葉ーーすき間から太陽の光の粒がこぼれ落ちてくる。

 

置き去りの木株に巣くるかみきりや

 

2017年7月、山梨県小金沢連峰。

朝四時半起きで猫に朝飯あげながら、のり弁つくって山行へ。二千メートル前後の標高で涼しげに森と富士山を満喫した一日でした。

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